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戦後の日米計算試合でそろばんが電動計算機に勝利

日本そろばん資料館ホームページ「そろばんの歴史」年表に記載されている歴史的トピックスを深く掘り下げます。


1946(昭和21) 
• 日本のそろばんとアメリカの電動計算機の計算試合がおこなわれ、そろばんが勝利した。



当時のアーニー・パイル劇場(東京宝塚劇場)
国立国会図書館デジタルコレクション:モージャー氏撮影写真資料より

1946年11月に東京のアーニー・パイル劇場(接収中の東京宝塚劇場)で開催されたそろばんと電動計算機の日米計算試合について、日本そろばん資料館学芸員/珠算史研究学会会長・太田敏幸先生監修のコラムです。

そろばん代表は逓信省東京貯金局の松崎喜義氏、電動計算機代表は米陸軍のトーマス・N・ウッド二等兵。
果たして試合の行方は?


1.戦後間もなくおこなわれた異種計算対決

獅子と虎が闘ったらどちらが勝つのか?
プロボクサーとプロレスラーの真剣勝負の勝者は?
異種対決には、容易に答えが出せないからこそのロマンがある。

戦後間もない東京で、あたかも、アメリカ西部のガンマンと日本刀を振るうサムライとの決闘がごとき異種対決がおこなわれた。

──そろばんvs電動計算機
そろばんは16世紀の終わりごろに中国から日本に伝わったとされる。その頃は天2地5の五つ珠だったものが明治時代に天1地5の五つ珠に、また昭和には天1地4の四つ珠に変わったものの、古くから伝統のある計算機である。
対するはアメリカのモンロー計算機社で開発された戦後の新しい時代を象徴するかのような電動計算機である。
この試合は、伝統対革新の対決でもあった。

2.アーニー・パイル劇場での一騎打ち

1946年11月11日、東京宝塚劇場を接収し改称したアーニー・パイル劇場を舞台として、米陸軍トーマス・N・ウッド二等兵の駆使する電動計算機と、逓信省東京貯金局に勤務する松崎喜義氏のそろばんとの計算試合がおこなわれた。
衆人環視のもとでおこなわれたこの対戦は、敗戦直後の日本にとっては、国家の威信を賭けた闘いでもあった。

記録では、そろばんが5戦4勝で電動計算機に勝利したとある。
結果だけならそろばんの完勝だったと言えるが、対戦成績を種目ごとに見比べれば、一つの誤答が勝敗を左右する、正に達人同士のせめぎ合いであったことが読み取れるであろう。

榊原孫太郎著「学校珠算明解」によれば試合の結果は以下の通り。
試合は加算、引き算、掛け算、割り算、混合の5種目で競われた。勝敗の基準は得点と計算時間である。
加算、引き算、割り算、混合でそろばんが勝ち、掛け算では電動計算機が勝利した。
したがって、4対1でそろばんの勝利となった。

試合内容の詳細:榊原孫太郎著「学校珠算明解」(昭和31年5月刊)をもとにしています

NHKのサイト「NHKアーカイブス」で、当時のニュース映像を見ることができます。

NHKアーカイブス 「きょうは何の日? 記念日で見るなつかし動画 」より

この計算試合を題材にした小説が昨年(2022年)12月に刊行されました。

犬飼 六岐 著「ソロバン・キッド」(集英社文庫)

登場人物は作者である犬飼氏の創作ですが、時代や舞台の背景には史実が巧みに取り入れられています。クライマックスには葛藤あり駆け引きありの迫真の対戦シーンが描かれます。
また、主人公の少年時代を描いた前半は、日活村を舞台に時代の空気感まで感じられる素晴らしいエピソードです。
そろばんの歴史に興味のある方、時代小説の好きな方には、ぜひお読みいただきたい小説です。

犬飼六岐先生に「ソロバン・キッド」についてのインタビューにお答えいただきました。以下のリンクからお読みいただけます。


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