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そろばん用語集:F.そろばんを使ったかけざん・わりざんについての用語

珠算教育研究所 「新珠算用語集」〈初出:「珠算春秋 No.98」2014年6月刊〉を編集したものです。
なお,年代や解釈によって用語には差異があることをご了承ください。


1.乗法(じょうほう)・乗算(じょうざん)・掛け算(かけざん)

a×bの計算のこと。

2.新頭乗法(しんとうじょうほう)

この乗法は,右方に置いた被乗数の末位と左方に置いた乗数の首位,第二位,第三位,……の順に掛け,その積は被乗数の末位の右の桁を最初の分子積の十の位として乗加していく。
この乗法では被乗数を先に取って乗加していく方法(先払い)と,乗加し終わってからその被乗数を取る方法(後払い)がある。
後払いによる新頭乗法はすでに中国では明代(1368~1615)末には出現しており,これを「隔位かくい 乗法」と称した。日本では明治・大正時代に帰除法およびこれと表裏の関係にある頭乗法が広く用いられるようになり,その後,商除法の普及によりこれと表裏の関係にあるこの乗法が用いられるようになった。このため頭乗法に対し新しい頭乗法ということから新頭乗法と名づけられた。またこの乗法を頭乗法別法とも称した。

3.頭乗法(とうじょうほう)・破頭乗法(はとうじょうほう)

この乗法は新頭乗法と同じように被乗数の末位と,乗数の首位,第二位,第三位,……の順に掛けていくが,その積は被乗数を最初の分子積の十の位の数に変化して乗加していく。
この乗法も隔位乗法(新頭乗法)と同じように中国では明代(1368~1615)末には出現しており,これを「破頭乗法」と称した。日本では,新編諸算記(1655)に「かしらかけさん」,百日算法書(明治18年)には「世相往々尾乗ノ方,幼童ノ便利ニスレトモ,首乗ニ慣ルゝトキハ至極便利ニシテ記憶ヲ増スナリ」とあって,伊勢百日算では首乗(尾乗に対する語)と称した。これが後に頭乗法という名称に変わった。
頭乗(首乗)・尾乗の名は乗数の頭位(首位)・尾位に基づいてつけられた名称である。

4.尾乗法(びじょうほう)

この乗法は被乗数の末位と,乗数は末位の数から逆の順序に掛けていく。最初の積は被乗数の末位から乗数の桁数だけ下がった桁を一の位にして分子積を入れる。
また,そろばんが中国から日本へ伝来して以来,江戸・明治・大正時代を通じて広く用いられてきた算法で,中国では明代の中期には出現しており,これを「棹尾とうび 乗法」と称した。日本では新編諸算記(1655)に「下かけさん」と記され,明治時代以後は「尾乗法」,「尻がけ」と呼ばれている。

5.逆頭乗法(ぎゃくとうじょうほう)

この乗法は被乗数の首位と,乗数の首位,第二位,第三位,……の順に掛けていく。最初の積は被乗数の首位より乗数の桁数だけ上がった桁を最初の分子積の十の位として乗加していく。
この乗法は以前,頭逆ずぎゃく 乗法と称したが,逆頭乗法と改められた。頭々乗法ともいう。暗算の乗法にはこの算法が利用される。また被乗数・乗数を盤面に置かない乗法(これを両落し法という)にはこの算法を利用する。
算木による乗法はこの算法と同じで,塵劫記じんこうき (寛永11年版,1634)の開立はそろばん4丁を縦に並べて行うが,ここでもこの乗法が示されている。

6.留頭乗法(りゅうとうじょうほう)・中乗法(ちゅうじょうほう)

この乗法は,被乗数の末位と,乗数の第二位,第三位,……と順に掛けていき,一番終わりに首位と掛ける。この乗法は乗数の首位(頭位)を留めておいて掛けていくので留頭乗法と名づけられ,中国では元代の算学啓蒙さんがくけいもう (1299)にその名称と計算法の説明が記載されている。この書は算木の書であるが,明代(1368~1615)にはそろばんへこの乗法が移行された。日本ではこの乗法を中乗法と呼んでいる。

7.実(じつ)

珠算では,被乗数・被除数のことを実という。算法統宗さんぽうとうそう (1593)には「実 もと ノ数」,算法新書(1830)には「実 算顆盤の右へおく 数をいふ」とある。

8.法(ほう)

珠算では,乗数・除数のことを法という。算法統宗(1593)には「法 あや ツル数ナリ」,算法新書(1830)には「法 算顆盤の左へ置数をいふ」とある。 

9.乗数(じょうずう)・目安(めやす)

a×bの場合のbのこと。掛ける数。珠算では,除数と同様に法ともいう。
改算記(1659)や新編諸算記(1663)には「目安」と記載されている。百日算では乗数や除数を置かないことを「目安消し」と称してきた。また,定位点のことを目安とも目安点とも言った。

10.被乗数(ひじょうすう)

a×bの場合のaのこと。掛けられる数。珠算では,被除数と同様に実ともいう。

11.積(せき)

a×b=cの場合のcのこと。掛け算をした答。

12.部分積(ぶぶんせき)

乗法の計算で乗加する積を部分積という。46×37の計算では,6×7=42の42や46×7=322の322をこの計算における部分積という。

13.分子積(ぶんしせき)

珠算では,乗法の計算において1位数×1位数の積を入れる桁の位置(除法の計算では引く桁の位置)を明示することがあるので,特にこのような積を分子積と名づける。
九九の中で分子積が1桁になるものを「一位九九」,2桁になるものを「十位九九」ということがある。

14.乗加(じょうか)

乗法の計算において,部分積・分子積を加える操作をいう。

15.交差型(こうさがた)

a×bの計算で,aをそろばんの右方,bをそろばんの左方に置くことを交差型という。簡単にX型ともいう。

16.平行型(へいこうがた)

a×bの計算で,aをそろばんの左方,bをそろばんの右方に置くことを平行型という。簡単にH型ともいう。

17.両落とし法(りょうおとしほう)

a×bの計算で,aとbの両方とも布数しないで計算する方法。分類Fの「逆頭乗法」の項を参照。

18.片落とし法(かたおとしほう)

a×bの計算で,一方を布数しないで計算する方法。a÷bの計算でb(除数)を布数しないで計算する方法。

19.残実(ざんじつ)

乗・除・開法の計算の途中で残っている部分の実(被乗数・被除数など)をいう。

20.定位法(ていいほう)

積や商の位を定める方法。

21.移動定位法(いどうていいほう)

計算したとき答の一の位がどの桁に移動するかを決める定位法。この定位法では,定位のための桁(一の位)の移動に被乗数・被除数の一の位を定位のための基準にする場合と,被乗数・被除数の一の位の左の桁を除法,右の桁を乗法の定位の基準とする2通りの方法が用いられている。
また,計算前に定位する方法と計算後に定位する方法がある。一般には答の一の位を定める方法が用いられているが,答の首位が何の位になるかを定める定位法がある。

22.固定定位法(こていいていいほう)

計算したときの答の一の位が一定の桁にくるように被乗数・被除数を布数する定位法。

23.観察定位法(かんさつていいほう)

被除数と乗数,被除数と除数の位を見て,積や商の位を推定する定位法。この定位法はすでに中国では明代の詳明算法(1373)に記載されている。

24.相殺定位法(そうさいていいほう)

連続する乗除の計算で,それぞれの計算段階ごとにひとつひとつ定位をしないで,それらを一まとめにして行う定位法。

25.連乗除(れんじょうじょ)

乗算や除算の計算を続けて行うこと。

26.除法(じょほう)・除算(じょざん)・割り算(わりざん)

a÷bの計算。

27.商除法(しょうじょほう)

この除法は,掛け算九九を使って商を求め,商は乗減する分子積の百の位にあたる桁に置き,商と除数の積を被除数から乗減する。
商除の名称は,中国の宋代(960~1279)に九帰法(割算九九を用いる1桁の除法)が生まれ,これに対して宋代以前に行っていた除法(掛け算九九によって商を求める除法)を商除と名づけたのが始まりで,算木による計算の時代につけられた名称である。
算木では,商・実・法と三段に数を置いて計算するのであるが,明代中期の九章詳註比類算法大全きゅうしょうしょうちゅうひるいさんぽうたいぜん(1450)には,現在,商除法別法と称している除法を商除と記載されている。
日本では新編諸算記(1655)に「亀井割九々引さん)として商除法別法が記載され,参両録(1653)には「商立術式」として商除法が記載されている。
明治になってからは,遠藤利貞「大日本数学史」(明治29年)には「商除法之ヲ亀井算ト謂フ」と記し,明治時代の中ごろにおける珠算改良会では商除法を「新式亀井算」と称している。
井上親亮「百日算法書」(明治18年)には「商立算除法」とある。また,竹貫登代多「新選珠算教科書」(明治20年)には還元の説明がある。
被除数と除数全体とを比べて九九によって商を見つける除法を商立除法,除数の首位だけで九九によって商を見つけ,商が過大なときは還元によって商を修正する除法を商除法と区別する人があるが,その必要はない。

28.商除法別法(しょうじょほうべっぽう)

この除法は,商除法より1桁右に商を置く除法で,新編諸算記(1655)に記された「亀井割九々引さん」と同じ算法である。
分類Fの「商除法」の項で記したように,中国では,掛け算九九によって商を求める除法が商除法で,日本では亀井算と称した。現在は商を置く桁の位置によって商除法,商除法別法の区別をしている。

29.帰除歌(きじょか)

一般に,「割算九九」と言われている。これは除数の首位と被除数の首位からその商と余りを歌声(九九)によって得られるようにしたもので,帰除歌「三一三十一」は10÷3=3あまり1のこと。
この除法は宋代(960~1279)に,除法の補数で商を見つけ出すことから始まり,宗代以後それが歌声として整えられ,計算に便利なため,商除法に代わって広く普及した。日本でも昭和時代の初めごろまで広く用いられていた。

30.帰除法(きじょほう)

分類Fの「帰除歌」の項を参照。

31.亀井算(かめいざん)

立商に「亀井割九九」を用いる除法。(184÷23のとき,「一ヲ八ニシテ八ノ十六」という句を使って計算する)。
新編諸算記に記された「亀井割九々引さん」と称する除法は,江戸時代に亀井割(亀井算)と称せられ,江戸時代の終わりごろまでに帰除歌(割算九九)と同様に商を求めるための「亀井算九九」が使われた。
現在は,初期の亀井割は「商除法別法」,亀井割九九を用いる除法を「亀井算」と呼んでいる。
分類Fの「商除法」の項参照。

32.被除数(ひじょすう)

a÷bの場合のaのこと。割られる数。珠算では,被乗数と同様に実ともいう。

33.除数(じょすう)

a÷bの場合のbのこと。割る数。珠算では,乗数と同様に法ともいう。

34.商(しょう)

a÷b=cの場合のcのこと。割り算した答。

35.部分商(ぶぶんしょう)

商が345の場合,34や3,4,5を部分商という。また,この場合,3を初商,4を次商,5を第三商という。
計算方法の説明のときには部分商を単に商というときもある。

36.立商(りっしょう)

商を盤面に置くこと。一般に「商を立てる」という。
商を見つけることを「商を案出(按出)する」という言い方をすることもある。

37.前立商(ぜんりっしょう)

商を盤面に置くとき,被除数の首位のすぐ左の桁に置く場合をいう。

38.飛立商(ひりっしょう)

商を盤面に置くとき,1桁飛んだ桁に置く場合をいう。

39.九立商(きゅうりっしょう)

商除法は通常,除数の首位の数によって商を見つけるから,除数の首位と被除数の首位が同じ数であるときには商に1が立つ。しかし,この場合,除数と同じ桁数だけ被除数の首位から取った数が除数より小さいと(例:216÷24)商に1が立たないから,このときには商を9とみて被乗数のすぐ左の桁に置く。これは商除法の立商に際しての特殊な場合であるので,特に九立商という。

40.乗減(じょうげん)

除法の計算において,部分積・分子積を被乗数から引く操作をいう。

41.仮商(かしょう)

仮に立てた商。

42.確商(かくしょう)・真実(しんしょう)

修正を要しない商。

43.過大商(かだいしょう)

過大に立てた商。

44.還元(かんげん)

過大商を修正するとき,商を1減らして除数のうち乗減し終わった部分の数を被除数へ戻すことを還元という。
還元は「還原」とも書く。詳明算法(1373)には「有帰若是無除数,起一回将元数施」とあり,算法統宗(1593)には「有帰若是無除数,起一還将原数施」とある。

45.大還元(だいかんげん)

過大商を修正するとき,商を1減らして除数のうち乗減し終わった部分の数を被除数へ戻すことを還元と言い,このとき,戻す数が2回以上の還元のことをいう。

46.過小商(かしょうしょう)

過小に立てた商。

47.追加立商(ついかりっしょう)

商に過小商を立てて乗減したときは,この商を真商に修正するために商を追加して計算する。このときの商の修正を追加立商という。

48.整除(せいじょ)

整数位で割り切れること。

49.完除(かんじょ)

整数位,小数位を問わず,割り切れること。

50.特別算法(とくべつさんぽう)

数の特徴を利用して,乗数(被乗数)・除数(被除数)・商などの補数を利用したり,一部を変化させて計算する方法をいう。(簡便算も含む)

51.簡便算(かんべんざん)・簡便法(かんべんほう)

計算の手数を省いて答を求める方法をいう。(加乗法,減乗法,減除法,加除法など)
また,a÷2をa×0.5と計算したり,(10a+b)×(10a+c)でb+c=10のとき,その積を10a×10(a+1)+bcとして求める(これを同偏十作という)など特殊な数の計算に簡略な計算法によって答を求める方法なども簡便算または簡便法という。

52.加乗法(かじょほう)・省一乗法(しょういちじょうほう)

乗数の首位が1の場合,この1を省いて行う乗法。
この乗法は中国では唐代(593~967)に生まれ,これを「身外加法」(身とは実のこと)とも,単に「加法」とも称した。

53.減除法(げんじょほう)・省一除法(しょういちじょほう)

除数の首位が1の場合,この1を省いて行う除法。
この除法は中国では唐代(593~967)に生まれ,これを「身外減法」「定身除」とも,単に「減法」とも称した。

54.減乗法(げんじょうほう)・帰一乗法(きいちじょうほう)

乗数の補数を用いて行う乗法。
この乗法は中国では唐代(593~967)に発生し,「損乗」と称した。

55.加除法・帰一除法(きいちじょほう)

除数の補数を用いて行う除法。
この除法は中国宋代(960~1279)に「増成一法」という名称で生まれ,この算法から後に九帰歌(割算九九)が生まれた。

56.減一乗法(げんいちじょうほう)

逆頭乗法で,乗数の末位の乗加を簡略にするために,乗数の末位から1を引いた数を乗数とする算法。

57.過大実乗法(かだいじつじょうほう)

被乗数(実)がa×$${10^n}$$に近い数の場合,a×$${10^n}$$を被乗数として乗法を行い,その積から過大実と実との差と,乗数とを乗減して積を修正する乗法。

58.過大商除法(かだいしょうじょほう)

商を過大に立てたために,計算途中で被除数からの乗減ができなくなったとき,商の数を借りて乗減すると被除数は裏面数となる。この裏面数について続けて除法を行うと(負の商を立てて裏面数へ乗加していく),過大数が修正されて真商が得られる。この計算を過大商除法という。

59.裏面実乗法(りめんじつじょうほう)

計算の過程で裏面数が表れ,これに掛け算をする場合に,裏面数に乗数を掛け,その積の首位から乗数を引く。この場合,盤面に裏面数が表れるのでその表面数を答とする方法。

60.裏面実除法(りめんじつじょほう)

計算の過程で裏面数が表れ,これに割り算をする場合に,裏面数の首位から除数を加え,繰り上がる上位の1を省き,残りを除数で割る。この場合,盤面の商は裏面数が表れるのでその表面数を答とする方法。